1. はじめに

1.1 アイリスオーヤマの低温調理器の発売

  10/30よりアイリスオーヤマが国内向けに低温調理器を発売する。 有名ブランドAnovaと比較するとリーズナブルではあるが、 数多く存在する中華製コピー商品に比べると多少高い14,800円での販売となる。

  そもそも低温調理とは、45度から85度の間の温度で長時間加熱する調理方法のことである。1 2010年代前半、当時はまだ一部の研究機関にしか存在せず、またそれは巨大で高額なものだった。 この装置に目をつけた開発者や投資家たちが広く一般家庭で採用できるようにと改良を進めたのが、現在世界中に普及している’いわゆる’「低温調理器」だ(英語圏では低温調理はSousVide、低温調理器は SousVideStickと呼ばれている)。 詳細はこちらのページを見ていただくとわかりやすいだろう。

  私も低温調理器を使用しておりその恩恵を日々受けているが、日本の一般家庭に広く普及しているとはまだ言えず、 アイリスオーヤマがこの市場にどれだけ貢献することができるか、今後の期待が膨らむ。

1.2 スタートアップとSous-vide

  さて、私が低温調理器の存在を知ったのは、2016年に発行されたFree to Makeの日本語訳版私たちはみなメイカーだの中の低温調理器に関する記述を読んだ時だ。 著書の中では代表的な低温調理器であるNomikuを例にとり、その開発経緯についてを述べている。

  Nomikuは2003年頃のアメリカのスタートアップ文化の中で誕生した。 ArduinoをベースにC++でデバイス管理を行っており、クラウドファンディングで募った資金を元にリリースへとこぎつけた。

  「Free to Make」の中ではNomikuの開発者である Lisa Fettermanのサクセスストーリーが描かれている。 いち料理人に過ぎなかった彼女が、低温調理に対する熱意とメイカームーブメント2の中で成功を収めるまでのストーリーはとても魅力的で、 USのスタートアップ文化について疎い自分にとっては刺激的な内容であった。

  この本を読んで興味を持ってググって見たところ、想像とは別に、結果はいずれもAnovaというブランドを提示してきた。 少なくとも日本語で「低温調理器」と検索をかけた結果の中ではその大半がAnovaかまた中華製の商品であり、Nomikuの存在が語られることはほとんどなかった。

  Nomikuはどこにいってしまったのだろうか。市場に破れて姿を消してしまったのだろうか。 この点に関して疑問に思っていたのだが、先日Redditで次のような記事を見かけた。 Anova CEO ripped off the Nomiku after investing early in Nomiku.

1.3 AnovaとNomikuの論争

  結果から言うと、どうやらAnovaとNomikuは低温調理器界(?)におけるアイデア盗用を巡って争いを続けている。

このノートでは、AnovaのCEOであるStephen Svajianの書いたMidium - On Lisa Fetterman and the Origins of Anovaの翻訳を試みることで論争を追うことを目的とする。また、文章がとても長くなってしまったため、元記事の著者であるStephenの意見をまとめる。

  • Nomikuの開発者であるLisaが、AnovaのCEOである私のこと盗用を行ったとして責めている。
  • だがそれは事実ではない。
  • 確かにAnovaやNomikuが市場に出る前に我々は情報交換を多くしていた。
  • しかし私がAnova開発に着手した当時、彼女は私の行動に間違いなく賛成してくれた。
  • 当時の私と彼女の間でなされたやりとりに関して、彼女はその多くの事実を捻じ曲げようとしている。
  • SNSやPodcastで攻撃されることに対してとても辛いし、努力している仲間たちにとっても大変失礼だ。

Stephenはこの意見につて論拠となるものを複数挙げており、彼の言い分を聞く限りではAnova側の意見は正しいように感じるが、 当然ながら真実は彼らにしかわからない。 今回はStephenの意見のみを取り上げる形となってしまったため、後の進展を見てNomiku側の意見も追っていきたいと思う。


2. [和訳] Lisa FettermanとAnovaの起源について

(英題: On Lisa Fetterman and the Origins of Anova)

数ヶ月前、私のAnovaでの同僚であるShannon McClenaghanが Lisa Fetterman(Nomikuの共同出資者)のポッドキャストについて注意の連絡をくれました。Shannon曰く、Lisaは「Anovaのサクセスストーリーは”発明の盗用(investor theft)“によってもたらされたものだ」と、偽りの情報を流しているとのことだ。

先週LisaはTechCrunchのインタビューとしてpodcastを配信した。そのpodcastにてLisaは、当初の話とは全く違うことを話していたようだ。

Lisaは私とAnovaについて誤解を招く意見(事実)を作り出し、真実とは異なる方向へと話を誘導していっている。彼女の最新のポッドキャストにおいては、「私は毎朝の起床後に復讐について考えている」と語っている。どのような復讐を考えているにせよ、どうやらLisaは私とAnovaの名誉、また我々のチームに対して傷つける権利があると思い違いをしているようだ。

シリコンバレーには正義に反するものが存在すると思っている。それは女性投資家のディスアドバンテージだ。これこそが私の危惧する問題であり、二人の娘の父親として彼女たちを育てていく上で特に気にかけている問題だ。これを読まれた方には、どうか事実を客観的に捉えて欲しい。多くの人が真実を認識してくれることを願っている。

私は低温調理器(sous vide)に対して早い段階から熱を上げていた。市場への導入を何度か試みたものの、機器の高額さ、マーケティングの失敗により、ブランドの消費者に対する売り込みは散々なものだった。しかし私はこの技術の将来性を信じていたので、2012に初めてLisaと会った時はとても感激を受けた。 私は会社に所属することを切に願っていたので少額の投資を行った。誤解を恐れずにいうと、その時の私は力なき(very small)投資家だった。Lisaは私よりも多い額を費やし、私のことに対しては気にかけていなかった。

一年と経たずして、私はLisaの性格について知ることになる。彼女の野望、カリスマ性は驚くべきものであったが、Nomikuの製品化には長い間手を焼いていた。 私は彼女を支援したかったし、nomikuで共に働くことを願っていた。彼女を成功へと導く自信はあったのだが、私のストレートな提案を彼女は受け入れなかった(私の助力を彼女は必要としなかった)。

2018年、私は低温調理器(solid immersion circulators)であるAnovaを運営している Jeff Wuと Natalie Vaughnに連絡をとった。多くの人には知られていないが、低温調理器はそもそもとても高価でサイズの大きい研究装置のようなものだったのだ。この装置をコンシューマ向けに再開発した会社の一つがPolyscienceだった。

Anovaも同様に、大衆向けに開発された低温調理器の一つだ。彼らはこの装置を一般向け市場へと持ち込みたがっていた。 彼らに対して、私がライバルであるNomikuの開発に関わっていることを伝えたが、それにもかかわらず彼らは気にせずプロダクトを私に送ってくれた。

Anovaのプロトタイプ版の開封に際して、自宅へとLisaをディナーに招待した。私の自宅でLisaと会うのはこの時が初めてだった。私の妻であるCourtney、2際の息子、まだ用事の娘でさえもこの食事に参加してくれた。

Lisaはこの食事に関して、ホールフーズのインスタント食品だったと(現在)述べている。これは6年前の話ではあるが、我々の家の近くにホールフーズはなく、また仮に万が一そのような(ディナーに招待するには不向きな)食事だったにせよ、二人の子供の世話をしなくてはいけないとても忙しい状況にあった(のだから責められるのは気分の良いものじゃない)。

この食事の時に、「私(筆者)がAnovaに関与していることを認めた」とLisaは言っている。しかし、これは真実ではない。Anovaに協力を始めたのはもっと先だ。私がAnovaに手を貸すことを決めたのは、この食事の約1ヶ月後のことだ。この時はまだNomikuに力を貸そうという気持ちは変わっていなかったからだ。

さらに悪いことに、「Lisaの怒りの原因は女性ホルモンのせいだ」と私が言ったことになっている。私は決してそんなことは言っていない。言うはずがない。

我が家のディナーの際には、我々はとてもフレンドリーな時間を過ごしたし、彼女がAnovaを持って帰宅するまでの間、ずっと和気あいあいと過ごしていた。

数ヶ月ののち、私はJeff とNatalie と知り合った。私は彼/彼女らのことが気に入ったし、彼らも私の話を受け入れてくれ、同時に私の助けを必要としてくれた。

ターニングポイントとなったのは、2013年の夏のことだ。当時の私はNomikuの手助けをできずにいたため、このままではNomikuがよくない方向に進んでしまうと考えていた。Nomikuに対してもっと深く関わっていきたいとう意志をを私は持っていたので、そのことを妻に伝えた。フルタイムで関わっていきたいと。その後、私はLisaにそのことを伝えるために連絡を取った。忘れもしない。私はそのことをLisaに伝え、その上でもしLisaが断るのであれば、私はAnovaで働く旨を述べた。ただし、もし彼女が私のAnovaへの協力を快く思わないのであれば控えることも伝えた。私はこの時のことを、彼女に間違いなく確認をとったことをはっきりと覚えている。彼女はこれに対して、「Anovaで沢山稼いで」と承諾の返事をくれたのだった。その快い返事があったからこそ、私は気負うことなくAnovaと手を組むことを始められたのだ。

2013年の7月から9月の間、私はAnovaでパートタイムとして働いた。私の仕事の中心は、アーリーステージにあるスタートアップが消費者と結びつくために、エージェンシーとして手助けすることだった。2013年に数ヶ月働いた時点で私の熱意は徐々に上昇していき、共同設立者であるJeffとNatalieと共にフルタイムで勤務するようになっていった。

顧客の動向調査、オペレーションの実行、プロダクトのロードマップの戦略といった業務を担当した。特に他のデバイスとの接続ストラテジーに注力した。これはAnovaをスマートホーム分野での第一人者となることを決定づけた。私の知るところにおいては、Lisaはスマートホーム分野への進出に興味を持っていなかった。

数年の間、我々Anovaはスタートアップ企業の設立に伴い浮き沈みを経験した。 当時のことを今振り返ってみるとそれはとても困難な道のりであった。 そして多くの人々が自身のハート、魂をAnovaに注いでくれた。そういったことがあったからこそ、私はこの仕事を侮辱されることを許せない。

2015年、我々はAnovaの組織体制の再編を行った。他の株主からの提案で、私の株の一部をNomikuに売却する流れとなった。 私はLisaに連絡を取り、彼女に売却する運びとなった。

冒頭で述べたLisaのインタビューにおいて彼女は2013年以来私とは一切連絡をとっていないと述べているが実際は異なる。 彼女は2016年にAnovaで私と働きたいという提案を彼女の方からしてきているのだから。

Lisaの連絡を受けて、私は彼女とランチをとることとなった。私はMichael Tankenoff を連れて、Lisaは夫であるAbe を連れて(Abe はNomiku のCTOでもある)のランチとなった。 そのランチにて、彼女は私と働きたいと面と向かって提案してきた。彼らはAnovaに自分たちを混ぜて欲しいという話をしており、我々もそれに賛成だった。 その時のLisaはとても気持ちの良い意見を話してくれた。彼女の言う2013年の出来事がもし本当に起こっていたとするのであれば、なぜこの時彼女はこんな提案をしたのだろうか。

最終的に、我々はNomikuと協力することはなかった。この2016年の出来事以来、私はLisaについての話を耳にすることはなかったので、数ヶ月前、および数日前に発表された彼女の怒りのポッドキャストは寝耳に水だった。

Lisaの発言について混乱されている方も多いだろうが、以下の点について一度考えてみて欲しい。

  • Lisaは私が彼女のアイデアを盗んだと主張している。だが低温調理器と言う発明そのもの自体はそもそも昔から存在していたものだ。 Polyscience やその他の企業は、すでにイマージョンサーキュレータの販売を我々に先立って行っていたではないか。低温調理器のスタートアップ市場はすでにヒートアップしていた。私がAnovaで働き始めた頃、Sansaireが市場に入ってきた。彼らはデバイスをさらに安い額でKickstaterの援助の元に開発を進めていた。 SansaireはNomikuという正当な好敵手がすでに存在していたこと自体はどう証明するのだろうか。

  • Lisa曰く、私は彼女から盗んだデザインでAnovaを作ったことになっているらしい。しかし、私はAnovaのデザインについては全く関与していない。 Anovaの初期デザインについても、Lisaの物を盗んだとは全く持って言えない。そもそも私がAnovaに入った時にはすでにデザインが出来上がっていた。

  • Anovaの成功はNomikuの盗用によるものだとLisaはのべる。2013年後半、私はAnovaを他のデバイスと接続できるようなアイデアを閃いた。 これは完全に私のアイデアだ。Anovaのこの機能は市場進出の下支えとな理、また他製品との差別化を強固なものとした。 私の記憶では、Lisaはデバイス連携という観点に関して興味を全く抱いていなかった。 我々の成功は、このアイデアにも起因するところが大きいという事実に反して、LisaはAnovaの成功を盗用という枠に当てはめようとしている。

  • Anovaの外観はNomikuに似ていない。先ほど述べたように、私はデザインに対して関与をしていない。それだけでなく、AnovaとNomikuには大きな違いがある。

    • Anovaは液晶ディスプレイである。Nomikuはダイアル式調整期である。
    • Anovaはネジ式クランプ。Nomikuはクリップ型クランプ。
  • 我々は盗用を行なっていない。幸いなことに、the Internet Wayback Machine3は嘘をつかない。 こちらのリンクをみて欲しい。

多様性の欠如はシリコンバレーの重大な問題だ。 女性をはじめとして、まだまだ投資を受けられない会社の代表が数多い。 私はこのような状況を問題視しているからこそ、Lisaの根拠のない攻撃に対して、より強く胸を痛めている。

Lisaの心情を考えると悲しく思いもするが、私自身の行いに対しては何も後ろ暗いところはない。 私は常にオープンであったし、正直であった。私の提案を退けたのは彼女だ。 私は悪事を決して働いていないし、そのような嘘によって歴史を改変しようとするLisaの行いによってとても傷ついている。

我々Anovaはこれまでたくさんの努力を積み重ねてきた。そしてそれは今もなお続いている。 Anovaという、仲間の多大なる貢献によって作られたプロダクトを非難されることは、とても辛いことだ。 なぜなら我々のハートと魂がそこに詰まっているから。